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常盤町の家

中心市街地の町家に住みかえる

木造

施工  木下製材+MP.SASATANI

Yさんは岐阜県の地方都市で特殊な印刷の会社を経営されている。ご自身の近い将来の引退を見据え、東京の支店で勤務されていた長男家族が帰郷することとなったようだ。それに伴い、郊外にある広い自身の住まいは長男家族に明け渡し、夫妻は、長く空き家になっていた中心市街地にあるご主人の実家でコンパクトな暮らしを始めようと構想された。極めて合理的な住み替えと言えるだろう。

間口4メートル奥行き40メートルという典型的な町家である。ご主人が幼少期を過ごしたその場所には先々代が建てた建物は残ってはいたものの、老朽化が激しくかなりの傾きも生じていた。且つ町家なので公道ギリギリまで建物が建っている為、駐車スペースの確保もままならない。私が相談を受けた際には、既に建て替えの意向は固まっていた様子である。

新築に向けては、既存建物の使えそうなものは極力再利用するという方針で解体に臨み、建具や欄間、箱階段といったものは取り置いた。家具・建具を担当された笹谷氏(MP・SASATANI)の事前のこまめな対応に拠るところは大きい。

とにかく間口は4メートルで、両隣は境界いっぱいまで建物が建っている状態である。隣地側外壁の位置決定は施工方法も含め難儀した。

全体構成は、公道側から駐車場~前庭~リビング~水場・中庭~離れ~裏庭というシンプルな構えである。南側駐車場との関係や、床下の通風、設備機器の将来的なメンテナンスといったことを考慮し、床下空間にゆとりを持たせ建物本体はやや高めのFL設定としている。

室内の仕上がり間口2間強の住まいは、町家住まい経験のない奥さんには模型や図面ではその大きさが体感として捉える事が困難な様子で、設計段階から出来上るまでその不安を抱えられていた。無理もないことである。部屋の広い狭いという感覚は物理的な平面的寸法だけでは測れない。開口部の大きさや形状、天井の高さや形状、それぞれの素材感や色、隣室との関係など諸々相まって感じるものだからだ。

竣工後、心配していたリビングにはお友達の出入りも頻繁で、愉しい時間を過ごされている様子を聞いて胸をなでおろした次第である。

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